ストリーマ研究所 空気のマメ知識 ノロウイルスにアルコール消毒は効かない?
冬こそ気をつけたい食中毒の予防法

食中毒といえば、梅雨や夏に多いと思われがちですが、実は冬の方が発生件数は多いことをご存知でしょうか。冬の方が多くなる原因は、感染力がとても強く、感染規模が拡大することも多いノロウイルスにあります。ノロウイルスに感染しないためにも、その特徴と正しい予防法を知って冬に備えましょう。

久和 茂 教授
監修者 久和 茂 教授
博士(農学)
東京大学大学院
農学生命科学研究科

冬こそ要注意! ノロウイルスによる食中毒

細菌による食中毒は、菌が増殖しやすい夏場に多くなりますが、ウイルスは低温や乾燥した環境を好むため、冬場はウイルス性の食中毒が増加します。その中でも、圧倒的に多いのがノロウイルスによる食中毒。ノロウイルスは非常に感染力が強く、一気に拡大感染してしまうケースが多いため、結果として夏場よりも発生件数や患者数が多くなります。年間の食中毒患者数を見ても、ノロウイルスがその半分以上を占めています。

手や食品などを介してノロウイルスが体内に入り込むと、腸の中で増殖して、腹痛・下痢・嘔吐・微熱などの症状を引き起こします。発症まで12~48時間程度の潜伏期間があり、突然、激しい吐き気や嘔吐が起きるのが特徴ですが、通常であれば1~2日で治まるケースがほとんどです。ただし、子どもや高齢者は重症化する場合もあるので、特に注意が必要です。また、症状が治まっても、その後1週間~1カ月程度は、便と一緒にノロウイルスが排泄されるため、二次感染にも注意してください。

食中毒統計 | 患者数で第1位:病因物質別の食中毒患者数(年間):ノロウイルス 58%・11,589人、冬期に多い:ノロウイルス食中毒の発生時期別の件数(年間):11~2月 64%・214件、大規模になりやすい:食中毒1件あたりの患者数(年間):ノロウイルス 34.6人

出典:食中毒統計(平成25年~29年の平均。病因物質が判明している食中毒に限る)

感染経路は、そこら中に潜んでいる?

具体的な感染経路として一番多いのが、ノロウイルスに汚染された食品を食べて感染する「経口感染」。カキなどの二枚貝に含まれていることが多いと言われていますが、菌が付着した手で触れた食品を食べて感染するケースも多いと考えらていれます。

他には、感染者の便や嘔吐物に触れたり、感染者が触れたものに間接的に触れたりすることで感染する「接触感染」もあります。感染者の便や嘔吐物を処理する際に、飛び散ったウイルスを吸い込んで感染する「飛沫感染」や、便や嘔吐物が乾燥して細かい粒子となって空気中を漂うことで感染する「空気感染」にも注意が必要です。

日常生活のあらゆる場面に感染リスクがあるため、周囲に感染者がいる場合は、感染経路をしっかり把握した上で、手洗いを徹底してください。

感染しても、有効な抗ウイルス剤はない!?

現在、ノロウイルスに効果のある抗ウイルス剤はないため、感染した場合は対症療法が行われます。特に抵抗力の弱い乳幼児や高齢者は、脱水症状を起こさないように、症状が少し落ち着いた時に、少しずつ水分と栄養の補給を行ってください。脱水症状がひどい場合は、病院で点滴を行うなどの治療が必要になります。また、下痢がひどいからといって、下痢止め薬を服用すると、ウイルスが腸管内に溜まって回復が遅くなる場合があるため、自分の判断で服用しないでください。感染が疑われる場合は、なるべく早く最寄りの保健所や医療機関を受診するのが一番です。

アルコール消毒は効果なし! 正しい知識で予防しよう

手に付着した細菌やウイルスには、アルコール消毒が有効ですが、ノロウイルスに関しては、その効果がないことがわかっています。そのため、石けんでの手洗いが一番有効な予防法になります。トイレに行った後や調理・食事の前には、必ず手洗いをするように徹底しましょう。指の間や手の甲、手首なども丁寧に洗うことが重要です。また、一度使ったタオルは菌が増えやすい状態になっているので、タオルはこまめに替えてください。

調理方法に関して言えば、カキなどの二枚貝は中心部まで十分に加熱しましょう。85℃~90℃で90秒間以上の加熱が必要です。野菜や果物などの生鮮食品も、十分に洗浄してください。見た目には新鮮でも、菌が付着している場合があります。調理器具を消毒する場合は、洗剤で十分に洗浄した後、塩素液に浸して消毒してください。正しい知識と対策を知って、ノロウイルスの感染・拡大を防ぎましょう。

POINT!

  • ウイルスは低温や乾燥を好むため、冬にノロウイルスの食中毒が増加する。
  • 感染力が高く、感染経路も多いため、規模が拡大しやすい。
  • 有効な抗ウイルス剤がないため、水分と栄養を補給して回復を待ちましょう。
  • アルコール消毒は効果がないので、手洗いと加熱調理、塩素液での消毒が大切。